介護と技術革新-科学的介護-

介祉塾の砂です。

 

最近、いろんなところで「科学的介護」という言葉を聞くようになりました。

 

何が科学的なのか、分かりにくいですね。

 

国の資料によれば科学的介護とは、「利用者の状態像ごとの標準的な心身機能の変化」よりも、機能の維持・向上を図ることのできる介護のことです。

 

ビッグデータやAIを活用することで

 

① 利用者の状態像(年齢、性別、疾患など)ごとに、標準的な心身機能の変化を設定でき

 

② どのような状態像の者に、どのようなケアを提供すれば、標準時よりも機能の維持・向上を図ることができるかが分かる

 

というものです。

 

端的に言えば、利用者の心身の状況を数値化することで、コンピューターによりその人の機能向上につながる介護マニュアルが導きだされるということです。

 

介護従事者にとってとてもすばらしいことだと思います。

 

なお、ゼロベースでプログラムを作るので、ビッグデータはこれから集めることになります。

 

2018年度の介護報酬改定でADL維持等加算が設けられ、国はバーセル・インデックスの数値を収集するようになりましたが、肝心なADL維持等加算の算定状況が1%程度(WAM調べ)なので、大分先になる気がします。

 

 

ただ社会的にすごいことかと言えば、どうなのでしょうか?

 

↓↓↓厚生労働省の資料↓↓↓

 

厚生労働省の資料によると科学的介護のメリットとしては「脳卒中に伴う左脚の麻痺で3メートルしか自力で歩行できなかった人が、杖を用いれば自力歩行が20メートル可能になる」とありますが、これってどういうことかと言えば、今まで歩行介助なしではトイレに行けなかった人が、(見守り付きで)歩いてトイレにいけるようになったぐらいのことです。

 

知り合いの理学療法士さんに話を聞くと、そういう人はもともと20メートル歩ける能力があって、歩かなくなったことで3メートルしか歩けなくなったのだそうです。

 

例えば、ちょっとした入院期間中に歩かなかったことで、このような状態になります。

 

このような状態から20メートル歩けるようにリハビリするとなると、人によりけりですが数ヶ月ほど掛かることもあります。

 

そして20メートルぐらい歩けると、在宅生活が送りやすくなります。

 

もっともこのような成果は科学的介護によらなくても、デイサービスなどできちんと機能訓練を行えば期待できます。

 

ちなみに、リハビリ病院や老健でしっかりリハビリを行ってもらえるかと言えばそうでもなく、さっさと在宅に復帰した方がむしろ良かったりすることもあります。

 

 

ところで、この17メートル差(20-3)がどれほどのことなのでしょうか?

 

介護従事者としてはこのような結果は好ましいですし、科学的介護によって効率よく介護サービスが提供されることが期待されます。

 

しかし、これによって利用者の要介護度が下がることや施設入所を遅らせることができるかと言えば、その効果は限定的です。

 

国の狙いは介護サービスの効率化とそれによる介護給付費の抑制ですから、日本の急速な高齢人口の上昇を考えると、やらないよりはマシかなという程度で焼け石に水のようなものです。

 

最近では軽度者(要支援者、要介護度1と2)を介護保険から外す傾向があり、介護予防に力を入れていないからなおさらです。

 

診療報酬のように包括医療費支払い制度(DPC)が設けられれば科学的介護も進むと思いますが、介護に導入するのはあまり現実的ではありません。

 

 

そもそも介護給付費を抑制するのであれば受益者(高齢者)の負担を増やすべきであり、このように小手先の対応をしているようでは社会(現役世代)の理解は到底得られないのだと思います。

 

また科学的介護にすごい市場性があるかと言えば、介護保険に依存している限りはあまり市場性がないです。

 

なぜなら、効率化により利益が出ればそのたびに介護保険制度改正により介護報酬が削られており、介護事業者にとって科学的介護は費用として認識されるからです。

 

 

ケアプランのAI化も同じです。

 

最近、もとSEの介護事業経営者とお話しする機会がありました。

 

システム開発に従事した経験のある人からすると、ケアプランをAI化するメリットを感じないと言っていました。

 

AIのすごいところは、人間が到底処理できない情報量をインプットしてアウトプット処理できること、膨大な件数をこなせること、一定のパフォーマンスを維持できることにあります。

 

翻ってケアマネジャーは平均25件程度を担当しますが、ケアプランの変更も毎月ではありません。

 

単純な転記作業も多いですし、専用の介護ソフトも開発されているので、入力作業に慣れている人であればサクサクっと作れます。

 

大切なのは利用者や家族、介護事業所、医療機関などとのコミュニケーションですし、大半の時間はこれに費やされます。

 

そして、介護業界は人手不足ですし経営環境も厳しいですから、いろいろな忖度が必要です。

 

AI活用のメリットは少なく、AIには不向きな分野です。

 

個人的にはケアプラン作成をAIがするよりも、OCRの読み取り機能や、Siri・AlexaなどのAIによる予測変換機能を充実する方がずっと実用的のように思います。

 

国としてはケアプランの質の向上のためと言っているのですが(本当は自立支援を名目に介護給付費を抑制したい)、現場のケアマネジャーの理解を得られないのであれば、診療報酬の電子化加算のように介護報酬の中に加算を組み込まない限り導入は進まないように思います。

 

やはり介護給付費を抑制したいなら受益者負担を増やすべきで、科学的介護も国が率先するより民間主導のイノベーションを期待する方が正しいように思います。

 

 

今回はダラダラと書いてしまいました(汗

 

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