従業員の解雇は思ったより大変です。
介祉塾の砂です。
介護業は離職率が高く、人の出入りが激しい業界です。
慢性的な人手不足のため、採用してはいけない人を採用することがよくあります。
例えば従業員が雇入れの次の日から来なくなった、といったことがあります。
私のクライアント先でもよく聞きます (^^;
さて会社側にとって、このような従業員と雇用契約を継続しておくと、業務の妨げになったり、法定福利費の負担が増えたりとデメリットが多いです。
なるべく関係を絶ちたいところです。
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このようなトラブルを回避する方法としては有期契約にすることなのでしょうが、大抵は6ヶ月間ぐらいなので、雇入れの次の日から無断欠勤するような従業員相手だとあまり役に立ちません。
会社としては自己都合退職にしたいところなのですが、うまく行かないこともあります。
そこで無断欠勤を理由とした、懲戒解雇を検討することになります。
しかしこれが、相当ハードルが高い…
先ずは就業規則や労働条件通知書に、あらかじめ解雇事由を明示しておくことが必要です。
例えば懲戒事由として、「正当な理由なく無断欠勤が2週間以上に及び、出勤の督促に応じなかった場合」のような規定を設けておくことです。
しかし当該解雇が懲戒事由に当たるかどうかは、個別ケースによって異なります。
というよりほとんどが解雇権濫用として無効となり、認められる可能性が少ないと考えておいたほうが良いです。
「多くの裁判例は、就業規則の解雇事由に該当するかどうか(客観的・合理的理由の有無)と、解雇が真にやむをえないか、それ以外の選択肢はなかったのか(社会的相当性の有無)という2つのチェックをしている(※)」とされるからです。
※ 森戸英幸「プレップ労働法」(弘文堂、2013年)
私が関わった事例を紹介します。
【事例】
ある会社の従業員が雇入れの日から1週間後に、社用車(原付)を勤務時間外に無断で使用し、右折禁止の交差点で右折して対向車線を走行中のバイクに衝突。
人身事故により、運転していた人に全治1ヶ月程度の傷害を与えました。
そしてその従業員は身体が痛いということで(病院の診断では軽微な挫傷)、翌日から無断欠勤しました。
会社からの電話にも出ませんでした。
会社は事故内容の報告を求め、従業員の自宅に直接訪問し再三の出勤の督促をしたものの、無断欠勤が続きました。
そこで会社としては明らかに問題があると考え、このままだと懲戒解雇することになると伝えました。
しかしその従業員は懲戒解雇を不服として、当該事故が勤務時間内の事故だと主張しました。
勤務時間内に起きた事故だとすると、業務災害として労災保険の適用があるからです。
もっとも会社としてはコンプライアンスに反するので、従業員に応じられないと言いました。
すると従業員は、通勤災害だと主張しました。
会社としてはとても相手にできないので、即時解雇することにしました。
しかし、即時解雇を予告する日がすでに雇入れた日から14日を過ぎており、解雇予告手当(※)の負担をする必要がありました。
※ 労働者を即時解雇する場合は、原則として30日分の平均賃金を支払う必要があります。ただし、「労働者の責めに帰すべき事由」など例外的事情について行政官庁の認定を受けた場合は、支払う必要はありません。(労働基準法第20条)
もっとも会社はすでに人身傷害について費用を負担しており、これ以上負担したくはありませんでした。
そのため「労働者の責めに帰すべき事由」による解雇として、労働基準監督署の解雇予告除外認定を受けることにしました。
で、労働基準監督官の返答はというと…。
「会社内における窃盗、横領、傷害等刑法犯に該当する行為」ぐらいの事情がないと、「労働者の責めに帰すべき事由」とは認定できません、とのことでした。
刑事法に詳しい人なら分かるかと思いますが、推定無罪の原則が働くので、解雇の時点で犯罪行為かどうか判断できないのですよね。
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つまり解雇予告除外認定が適用されるケースは、ほとんどないということです.
会社としては交通事故の証明も出てるし、タイムカードなどの証拠も揃っていたのですが、それでもダメでした。
私としては気になったので労働基準監督官に、どのような場合に「労働者の責めに帰すべき事由」となるのですかと質問しました。
当該従業員が、犯罪行為を認めているような明らかなケースに限るとのことでした。
そのような場合は、解雇予告手当などはほとんど問題にならないですね (^^;
なお、このケースでは最終的に当該従業員から退職届が出され、解雇予告手当を支払わずに済み、もちろん労災事故ともなりませんでした。
色々と大変でしたが…
このことから何が分かるかというと、「労働者の責めに帰すべき事由」による解雇が正当と認められるケースはほとんどないということです。
懲戒解雇はほどんどできない、と考えておくべきです。
ときどきニュースになる地方公務員の不祥事、例えば学校教諭が生徒のいじめに加担していたとか、教育委員会の職員が証拠書類を隠していたとか、そのような悪質なケースでも免職(※)とならないのは、実は多少の裁量はあれど懲戒免職はほとんどできないからなのです。
※ 公務員の場合は「解雇」ではなく、「免職」という言葉を使います。
では会社としては、どのように対応したらよいのでしょうか?
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