最新2019年度介護保険改正-介護職員等特定処遇改善加算-

介祉塾の砂です。

 

今年の10月から介護職員等特定処遇改善加算(以下、特定加算)が設けられました。

 

※ 東京都福祉保健局「介護職員等特定処遇改善加算の賃金改善計画策定のためのフローチャート」

 

内容はすでにご存知の方が多いので詳細について書くのはやめて、多くの事業者が悩まれている「介護職員間の賃金バランスが崩れてしまう可能性」について考えて見ます。

 

 

どういうことかというと、特定加算算定の要件として「月額8万円の賃金改善となる者」または「処遇改善後の賃金が440 万円以上となる者」を設定・確保する必要がありますが、この金額を支給される者は少数(1事業所あたり1名程度)なので、他の職員との処遇に差が出ることにより介護職員間の不満とならないかという点です。

 

なぜなら特定加算は「勤続 10 年以上の介護福祉士(※)」の条件を満たす一部の職員を優先的に処遇するのが精一杯の金額しかなく、他の職員の処遇改善には不十分だからです。

 

※ 勤続10年以上については各事業者によって変更可能。

 

特定加算の算定要件で、ⓐ勤続 10 年以上の介護福祉士とⓑ他の介護職員ⓒその他の職種の配分比率が4:2:1となっているのも、特定加算により得られる金額が少ないことによります。

 

例えば売上高が1億円、加算率を3%(300万円)、介護職員等30名(ⓐ5名、ⓑ15名、ⓒ10名)の場合にⓐ171万円:ⓑ85万円:ⓒ43万円(小数点第一位切り捨て)と、とてもバランスが悪いです。

 

ⓐグループのなかの1人だけが約80万円(8万円×12ヶ月、内法定福利費除く)ほど賃金が上昇することになり、他の人は20~数万円の上昇で不平等ですね。

 

 

しかし多くの事業者は特定加算を算定するようなので、悩みつつも加算取得届を出しているのが実態なのでしょう。

 

ちなみにこの440万円というのは役職者を除く全産業平均賃金にあたるので、この特定加算によっても介護業界の平均賃金は到底全産業平均に及ばないことになります。

 

そして介護職員の賃金の上限値を公的に示すことで、介護業界の賃金が低いことが鮮明になるのでこれはこれで問題な気もします。

 

 

それはさておき、多くの事業者が悩むような介護職員間に不和が生じるのかという点ですね。

 

つまり、離職率が高まるのではないかということです。

 

これについては実際に算定前に従業員のアンケート調査を取るのがもっとも簡便ですが、なかなかそこまでやるのも難しいです。

 

上記ⓐⓑⓒと3つのグループに分けたとして、ⓑだけでなくⓐのなかでも一部の者が優先的に処遇されるので、大多数の者は処遇されないので不満であることは明らかですからね。

 

とはいってもこのような加算は初めてなので、離職率が高まるかの検証については類似の事例から推測するしかないです。

 

 

 

例えば、特定加算と同様に形式的に一部の者が処遇され、他の者が処遇されなかった事例として、複数の企業が吸収合併したケースがあります。

 

メガバンクの吸収合併のケースとかです。

 

吸収する側と吸収される側では上下関係があるので、例えば肩書きが同じ課長だったとしても実際は対等ではありません。

 

そこで吸収する側は吸収する前に役職者の地位を1ランク以上、上げるということが往々にあります。

 

それによって上下関係を明確にし、吸収する側の課長が吸収される側の課長より上だということを示すわけです。

 

 

で結果どうなったかというと、吸収された側の職員のモチベーションが下がって退職者が増えることになりました。

 

三菱東京U○J銀行に勤めている方などに私が「いい銀行勤めていらっしゃいますね」と言うと、「いえ、私は吸収された東○銀行出身なので、全然です。いつ辞めようかと考えています」と言った返事が返ってくることがよくあります。

 

処遇された者とされなかった者では、意識に大きな差があるのだと思いました。

 

もちろん吸収合併した場合、部門や支店などが重複するため始めからリストラを意図しているので、むしろ退職者が増えることが歓迎されます。

 

したがって、今回の特定加算の場合も離職率が上がる可能性が高いように思います。

 

 

ではこのような離職率を高めないために、介護事業者はどのような対応をすれば良いのでしょうか?

 

① 事前に全職員に周知するだけでなく、全職員に個別に説明する。

 

介護の現場はそれほど法令に熟知している人が少ないので、勝手な解釈で意識のズレが生じるのを防ぐ必要があります。

 

また賃金格差というのは簡単に納得させることが難しいので(処遇されない人は特に)、文書による辞令ではなく責任者による全職員への個別の説明が重要です。

 

 

② 経験・技能で介護職員の処遇を決めるのではなく、単純に介護福祉士の資格の有無と勤続年数で処遇を決める。

 

特定加算は国が政策的に決めたもので、事業者が経験・技能の評価について主観を入れると余計にややこしくなり、透明性が下がります。

 

透明性が下がると職員間の不満が増えます。

 

また一般的な賃金制度における人事考課が働いた実績に対する評価である点と異なり、特定加算の場合は働く前の評価なので根拠が薄く恣意的になりやすいです。

 

したがって、単純に介護福祉士の資格の有無と勤続年数で処遇を決める方がストレスが少なく済みます。

 

ただし勤続年数とは業界経験に限らず、自社での勤続年数、主任としての勤続年数などを総合的に判断することや、期間も10年以上と区切らず柔軟に変更することが重要です。

 

そしてできる限り勤続年数に対して比例的に、加算額を配分する方が好ましいです。

 

そのことにより職員は長く働こうと思うからです。

 

 

③ 支給方法を一時金とし、加算額を分配する。

 

特定加算は他の処遇改善加算と分けて明示する必要があります。

 

また介護職員等を3つのグループに予め分けるので、後で変更することが難しいため予定どおり分配できるとは限りません。

 

したがって非常にややこしいので、なるべく賃金規程などは見直しせず、一時金として何回かに分けて支払う方が良いと思います。

 

以上、長々と書きました (^^;

 

 

特定介護職員等処遇改善加算のご相談は介祉塾に!

 

 

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